「水沢さんのことがあってもなくても、アイツとは別れようと思ってたんや。今も別れてるはずなんやけど、アイツ合い鍵返してくれへんくて。」

「まだ学生なんでしょ?親公認の仲だと噂で聞いたことあるんだけど、だったら親に言って返してもらえばよかったのに。」

「そやな。俺が甘かったわ。」

どこか彼女に未練がありそうな雰囲気ではあったが、私はそれ以上2人のことを話すのはやめた。その日は結局家まで車で送ってもらった。途中ファミレスでランチをしたけど、ほとんど会話することはなかった。

私は彼と少し距離をおこうと思った。というより・・・あの後会社でどう顔を合わせたらいいがわからなかった。だから廊下ですれ違うとき、私はなるべく話かけられないように忙しいフリをした。吉田さんもそれを察してか私を食事に誘うことはなかった。彼女と和解したんだろうか?寄りを戻したんだろうか?気になってはいたが聞けずにいた。そんな時に限って、会社でたまたま吉田さん宛ての外線に出てしまった。その電話の主は名前を名乗らなかった。

「恐れいりますが、会社名を伺えますでしょうか?」

「はぁ?」

会社人とは思えないその口調に、違和感を感じた。若い声・・・私は彼女ではないかと疑った。取り引きのない会社名からの勧誘や営業電話は本人に取り次がないように言われていたけど、その電話は無視するとよくない気がして、吉田さんに取り次ぐか確認することにした。

「お疲れさまです。水沢です。」

「お疲れさん。」

「外線ですが取り次いでもよろしいでしょうか?」

「誰から?」

私は小声で伝えた。

「女性からで名乗らないんですが・・・たぶん彼女じゃないかと。ちょっと口調が恐いかも・・・」

「あ〜」

吉田さんは思い当たることがあるのか渋い顔をした。

「席にいないって伝えて。」

「わかりました。」

私が言われたとおりの対応をすると、彼女らしきその女性はよくわからない言葉を発して怒りながら電話を切った。吉田さんはすぐにプライベート携帯を持って廊下に出て行ってしまった。