そんな話をしてる矢先に、今度は家電が鳴った。吉田さんがわざと電話に出ないでいると留守応答になり、留守電を吹き込む彼女の声が聞こえてきた。

「女が家にいるのはわかってるのよ!卑怯者!電話出なさいよ!」

まるで、私に対して言われてる感じがした。吉田さんは私に気をつかって電話の配線を外した。

「やっぱり、私帰るね。」

「じゃあ車で送っていくからちょっと待って。」

「いいよ。電車で帰る。」

「いや・・・アイツ外にいるかもしれへんし危ないから。」

私が化粧直しをして帰る用意をしている間、吉田さんはベランダに出てタバコを吸っていた。そんな温和な時間は少しももたず、さっきの電話から10分もたたないうちに彼女がドア鈴を何度も鳴らし始めた。

「ちょっと!女出しなさいよ!話があるのよ!出てこないなら開けるわよ!」

廊下で叫んでいたかと思ったら、今度は持っていた合鍵をつかってドアを開けた。ドアにはチェーンがしてあったが、玄関をのぞいていた私は、一瞬隙間から彼女と目が合ったような気がした。

「ちょっと!チェーンはずしなさいよ!」

彼女の細い手が隙間から入ってきてチェーンをつかんでいた。びっくりした私はベランダにいた吉田さんのところに駆け寄った。

「吉田さん!彼女ドア開けてきちゃいますよ!」

吉田さんはイラっとした顔をしていた。

「マジで!わかった。話してくるから水沢さんは部屋におって。」

「大丈夫?」

「ああ。絶対出てこんでな!」

そして彼はチェーンをはずし、玄関のドアを開けた。