「もしもし?」

「もしもし?あ、吉田やけど。」

「あ〜吉田さん?」

着信画面を見てなかったので誰かわからなかったが、ひとまず安心した。

「なんや電話とるの早いなぁ。」

「手に持ってたんです。どうかされました?」

「あ、いや。気を悪くしたらごめんな。噂で聞いたんやけど、昨日大変な目にあったって。」

「あ、はい・・・」

「さっき定時で帰ったって聞いたから無事に家ついたかなって。」

「心配してくれたんですか?ありがとうございます!」

「まだ外なんか?」

「今ちょうど人通りの少ない道歩いてて怖かったんです。彼氏に電話しても心配してくれなくて・・・泣きそうになってました。」

「あかんわ!冷たい彼氏やなぁ!」

「吉田さん、優しいですね。」

「当たり前やないか。」

「まだ会社じゃないんですか?どこで電話してるの?」

「喫煙所や。まだ残業せなあかんけど、気になって電話しよ思って。タバコもすいたかったしな。」

そうやってついでっぽく言ってくれたけど、すごく心配してくれてるのが声質でわかった。吉田さんは私が家に着いて部屋の中を確認するまで電話を繋いでてくれた。次の日も、またその次の日も、毎日帰り道に電話をしてくれた。そんな彼の優しさに私はだんだん惹かれていった。その揺れている気持ちをはっきりと認識したのは、週末マナブが私の家に泊まりに来たときだった。夕食後、2人並んで座ってテレビを見ているとき、マナブがキスをせまってきた。

「ごめん、そんな気分じゃない。」

「なんで?」

「なんで、って・・・・」

マナブは事件のことなど記憶にもないのか、私が嫌がる理由をわかってなかった。さらに強引にせまってくる彼の体を私は押しのけた。

「何のために付き合ってるかわかんねぇじゃん!」

「何のためってどういうこと!?体だけが目当てで付き合ってるの?」

「そういう意味じゃねぇけど、彼女とできなかったら誰とすんだよ!」

「あんな事件あったばかりだよ?少しは私の気持ちも考えてよ!」