翌日、睡眠不足のまま会社へと向かった。マナブと駅まで一緒だったけど、私は昨日の男がどこかで見てるんじゃないかとドキドキした。ベージュのチノパンが頭から離れなかった。

いつもは1、2時間は残業があるけれど、私は明るい時間に帰りたかったので、チームリーダーの高野さんに相談をすると、すぐに部長にまで話しをしてくれて、しばらく15時で早退しても構わないよと配慮を頂いた。そうしたいのはやまやまだけど、時間短縮したところでお給料が減るのもきついので、私はしばらく定時で上がらせてもらうことにした。

帰り道、私は最寄り駅についてすぐマナブに電話した。

「どうしたの?」

付き合って2年近くなるけど電話をしたことはほとんどない。だからマナブはそんな返事だった。

「今帰りなんだけど・・・」

「早いね。いつも残業してるって言ってたじゃん。」

「早く上がらせてもらったんだけど。」

「え?なんで?」

本当は自宅につくまで話してようと思った。帰り道のどこかで昨日の男が待ち伏せしてるんじゃないか、と恐怖心にかられていたから誰かと繋がっていたかった。でも、彼は私の気持ちには気づいていなかった。そして話すこともなく無言通話状態になった。

「何でもない。またかけるね。」

そう言って私から電話を切った。私の気持ちを察してくれないなんて。マナブの鈍感さに腹が立ち、そんな男に頼るくらいならと目の前の暗い道を早歩きで行く覚悟をした。でもやっぱり怖い。私は何かあったときにすぐに110番へ電話がかけれるように携帯を手にとり、1と0をあらかじめ押しておいた。

「!!」

後ろから追い越していく自転車にひやっとしたり、前から歩いてくる男の人を疑ってとおりの逆サイドに寄ってみたり・・・半分泣きかけながら早歩きをした。とその時、携帯がなり、手に持っていた私はワンコールもしないうちにすぐに応答した。