「千与、どこか痛むのか?」

優しい、穏やかな声が千与の頭上から聞こえた。
彼女が視線を移すとぼやけたその視界には確かに、想い焦がれた由親がいた。

「―腹か?足か?」

「どこも平気じゃ。」

「ならば、何故そちは…」

「そなたに心配などされとうない!」

心とは裏腹の言葉。
八つ当たりだとわかっていても、千与には声を荒げることしか今はできなかった。

「千与、」

「…すまぬがひとりにさせてくれぬか。」

千与はそう言い放つと涙を乱暴に袖で拭い、くるりと背を向けた。