「由親、そなたは幸運じゃ。そなたは男子。女子もより取り見取りだ。―女子に産まれたら、縁談も選べぬ。」

刀を鞘に仕舞い、か細い声で千与は言う。

「千与…縁談、来たのか?」

「まだ来ておらぬが…いつか来るのはもうわかっておる。父上が出世するには千与が必要なんじゃ。わかっておる。」


育ててくれた父の為。そう理解しようとするけれど、できるわけがない。
それが当たり前だとしても…好いてもいない男と、だなんて誰も気が進まないだろう。

千与は尾張では皮肉にも名の知れた武士である父の娘、よりも美しい女子と有名で、今まで縁談が来ない方がおかしい。
―まあ、きっと筋金入りの頑固と、その意地っ張りが災いしたのだろうけど。

「…そちが、いずれ離れるのは覚悟しておる。」

「え?」

「そのときが来るまで千与の隣は私の席、でよいか?」

「…たわけ。」

ニッコリ微笑む由親に、悪態をつく千与。
二人は互いに想い合っているのに、結ばれることはない。決して。