「ならば、こうしてはおるまい。いつも通り素振りなどして信長殿の足手まといにならぬようにしておけ!」

千与は明るい口調でそう言ったが、顔を上げることはなく、駆けて家に戻った。今彼の顔を見たら、泣いてしまうとわかっていた。
今にも泣きそうな己の顔を由親に見せるわけにもいかなかった。

「行かないで」そう言いたくても、言えない。その一言は禁句だとわかりきっている。彼女は父の背中に幼い頃にそう伝えたことがあったのを、ふと思い出した。
そのとき、父は泣いてる我が子を抱き抱え、頬を拭い、諭した。

『出陣は武士の誇りなのじゃ、千与。そなたは誇り高き武家の娘故、そのようなことを言うてはならぬ。わかったか?』

『はい、父上。』