南蛮寺を出て、帰路に着く千与の顔は清々しかった。穏やかで、晴れやかで、それでいて可憐な微笑み。

キリスト教に出会い、世界が変わった。どれもみな彼女には輝かしく映っていた。

「千与、そち機嫌が良さそうじゃな。」

その声に振り返ると、愛しい幼なじみがそこにいてきゅっと胸を掴まれる想いが千与に溢れた。

「由親」

「…そなたの胸元に光るそれは、」

由親の声が徐々に小さくなる。顔にも笑みが消え、指を指す。"それ"に。

「これは…」

千与はロザリオに触れ、由親をじっと見つめた。

「そちは、天主教の…キリシタンになったのか?」

千与は頷き、ロザリオを握りしめた。そして瞳を伏せ、また由親の瞳を見た。

「…千与は、今エバと云う名を頂いたのじゃ。わらわは、神の教えに誠を感じた。」

「…」

「由親は、やはり気に入らぬか?」

その問いにしばし沈黙した由親だが、笑顔を作り首を振った。

「そちは…千与は、キリシタンでも千与じゃ。なにも変わらぬ。」

その言葉が優しく千与を包み込み、千与は涙を流した。悲しみのではなく、温かな涙だった。