ジョゼは優しく微笑み、頷いた。

「遅いなんてことありませぬぞ千与様。」

「誠、か?」

「はい。」

ジョゼの笑みは崩れなく、美しいままだった。

「―洗礼を受けたい、そう解釈してよいのですね?」

「…はい。」

千与は袴をきゅっと掴む。


「…辞めるなら、今のうちでございますよ?」

「っ、辞めませぬ。」

ただ、彼女の両親は仏教を信仰している。なのに、勝手にキリシタンになってもいいのか?彼女はそんな板挟みにあっていたのだった。

「―申し訳ありませぬ、父上、母上。」

何度も何度も謝罪の言葉を口にしながら、南蛮寺に向かう。

―わらわは、これからキリシタンとして生きまする。父上、母上。千与は、天主教の教えを守り、生きとうございます。
父上、母上、申し訳ありません。お許しになられぬとおっしゃるならば、わらわは勘当されても仕方ないと思います。