「千与は、幼き頃から父上みたいな武士になりたかった。―でも女子故、武士にはなれぬ。」
そう苦笑いを浮かべる千与に、ぽつりと由親は言葉を漏らす。
「武士はそんないいものか?」
「え?」
「千与の父上ともなろうお方になると戦に出なければいけぬ。戦に出れば敵を斬る。…命を奪うのだぞ?己の身も危うい。」
いつか、私も戦に出るときが来る。
それは恐怖でもあり、武士としての名誉でもある。
複雑な想いが由親を支配していた。
「戦とは一体なんのためにやる?」
命を懸けてまで得るものはなんだろう。
「…わからぬ。」
「人の命を奪い、血を浴び、恐ろしいとは思わぬのだろうか。」
いつか、由親も行くのだろうか。秀吉殿のように、地侍の由親が信長殿に見初められる可能性も全くないとは言えぬ。
恐ろしいその場に、由親が行くのを考えるだけで、千与は胸を締め付けられる。息のできない程に。