その夜。
千与は一人で外に出た。どうしても眠りにつくことができなかったからだ。

空には満天の星が煌めく。そして上弦の月が優しく照らす。
静寂だけが町を包んでいた。

しばらく歩くと土手に着き、千与は腰を下ろした。
昔、由親とよくここで他愛のない話をしたなと、過去に思いを馳せ目をつむる。
そこにいない愛おしい人を思い浮かべ、小さく苦笑いをした。

「千与か?」

その声に千与の肩は小さく跳ねた。

「―由、親…」

千与が振り向くと、声の主はさっきまで思い浮かべていた愛おしい人だった。

「いかにも由親だ。」

そう笑みを見せ、千与の隣に腰を下ろす。

「こんな夜にそちはなにをしておる。」

「…星を見ておるのだ。」


「女子が一人でおっては危ないではないか。」

「男子はそんなに偉いのか?」

そのか細い声に由親はそっと千与を見る。
眉間に皺を寄せ、今にも涙を流しそうな千与。由親はそんな表情の彼女を今まで見たことがなかった。

「男子は…何故そんな偉い?」

女子はただの道具。
いつか父上の為に使われる道具。
その現実が、千与を弱くする。

「…すまぬ、千与。」

強くなりたい、そう願う彼女を幼き頃から見ていた由親。自らの発言に傷付いた千与にただ、そう謝るしか彼にはできなかった。