確かに私は青が好きだ。
でも彼にそんなことを教えた覚えはなかった。
だって会話をしたことさえ。
「どうして、私の好きな色を……?」
たずねると、彼はなんてことはない、という表情で理由を連ねた。
「衣装の話をしてるとき、いつも青に目が行ってた。
暇なとき、ずっと青い生地を触ってた。
あなたは正しい。
あなたには青が似合うから」
度肝を抜かれた。
自分の世界を泳いでいるものだとばかり思っていた彼に、
じつはここまでの洞察力があっただなんて。
それを知ったとたん、彼のとろんと眠そうだった瞳が、
真実をあばくほどの純粋さに深く輝いているように見えた。
この人。
もしかして、本当は、想像もできないくらいすごい人なのかもしれない。
「それじゃ、さようなら」
呆然としている私を残して、彼は去って行った。
ポケットに手をつっこんで、口笛を吹きながら。
ずっと表情は変わらなかったけれど、そのときの彼はいつになく上機嫌であったことを、
私はその後に知ることになる。
それはさておき、彼からもらった写真集と、彼に切り取られた四角い空を抱きしめて、
私は高鳴る胸に世の不条理さを嘆いていた。
なぜこのときめきが向かう先は、私の理想と違うのだろう、と。