「ミリ。こっち向いて。」


俯いているあたしにユキはそっと囁く。


この至近距離からものすごくユキの視線を感じてあたしは顔を上げられない。


「ミリ。」


今度はたしなめるように少し強い口調のユキ。


あたしは恐る恐る視線を上げた。


青い瞳がすぐ目の前。じっとあたしを見つめていた。


心臓が破裂するほどドキドキしているのに、あたしはもう目をそらすことが出来ない。


一度視線が交じり合ってしまったら最後。


完全にあたしは彼の餌食。捕らわれてしまっているの。


「何怒ってんの?」


ユキは少し顔を傾け、それでも目はあたしに向けたまま囁く。


彼はまばたきもせずにさらにあたしの目の奥を覗き込んだ。


まるで自分の視線があたしに及ぼす効果を知っているかのように。


「ミリ。言ってくれなきゃわかんないよ。」


改めて聞かれても困ってしまう。


あたしの期限が悪い理由なんて。


加奈子がユキに好意を寄せていることが嫌。


それをしっかりあたしに見せつけ、宣戦布告されたのに、なんせ相手がユキ。今回ばかりは手のうちようがないことが嫌。

新しい女と言われたことが嫌。


玄関に加奈子が出て行った時、あたしを見もせず素通りして加奈子の見送りをした事が嫌。


嫌な理由はたくさんある。でもね、こんな気持ちどう説明したらいいのかわからないし、説明したくもない。


こんな気持ちを正直にぶつけたら、あたしがユキに愛の告白をしているのと同じじゃない。


そんな事は間違ってもしたくない。


ユキのそばに入られなくなるかもしれない。そんなの絶対に嫌だもの。