しかしあたしの紹介は不十分だ。


美人なんてわざわざ紹介してもらわなくても、見ただけでわかる事だ。


しかし加奈子はあたしが何者なのか理解していないだろうというあたしの予想は外れた。


「社長。この方が新しい同居人の方ですか?」


長髪男もそうだったけど、この加奈子という女もあたしを見ただけで状況を把握しているようだった。


しかも(これはあたしが気にしていた事なのだけど)2人共あたしを"新しい"と呼んだ。


ただ今回長髪男と違うのは、加奈子の言葉にはわずかに敵意が滲んでいた事だ。


「そうだよ。」


ユキは動揺することもなく嬉しそうに言った。


「毎度毎度きれいな方ですね。ではあたしはこれで失礼いたします。」


毎度毎度…。この女はいちいちつっかかる言い方をする。


それから彼女はユキから受け取った紙を大きめのビジネスバックにしまい、玄関があるあたしの方に向かってきた。


そうしてあたしの真横にきた彼女はあたしの耳元までぐっと顔を近づけた。


「あなたはいつまでココにおいてもらえるかしらね。」


そうして何事もなかったように玄関に向かった。

は?なんなのこの女。会って1分もたたないうちから敵意まるだしなのね。


ユキもあたしを見もせず素通りし、玄関に向かった。


それがさらにあたしのイライラを煽った。


あたしは玄関にまでは行かなかったもののこの場所から2人を見た。


「加奈子こんな時間までごめんな。」


「いえいえ。社長の頼みですので。」


そう言いながら靴を履いた加奈子の顔が嫌悪に歪んだのを見た。


その視線の先にあるのはあたしがさっき脱ぎ捨てたピンヒール。


あまりにも急いで脱ぎ捨てたものだから片方は玄関の靴箱の上に、もう片方は廊下に転がっていた。


加奈子はそれをこれ見よがしにきれいに揃えると、社長の部屋に住まわせてもらっているならもっときれいに使ってくださいとかなんとか言いさっそうと出ていった。