サーカスの楽屋裏に向かった僕は妙な体験をした。
まず始めに声一つ聞こえやしない。
テントなのに裏に入ったとたんまったくもって別空間のような部屋が現れた。
広くて真っ白な部屋の中には扉が一つだけある。
「…あれ?」
「どした?」
「物理的にこの空間おかしくない?こんな部屋、出来るわけが…」
「物理的じゃないんだろ?」
トーゼンみたいにジェイドは僕に返した。
「……とりあえずあの人に会いに行こう…仕事もしなきゃいけないし」
「だから無駄だと…」
「行って見なきゃわかんないよ」
「……わかるんだって」
ため息をついて言う。
「?」
僕は意味が分らずドアに手をかけた。
すると後ろから挙動不審な声が聞こえた。
「こ、ここここここの先は誰も入れないよ…い、いいいいいや入らなくていいんだ」
後ろから貧相な格好をした男がかすれた声で言った。
汚れたシャツにボロボロのズボン、目の下に大きなクマ、青白い肌、折れそうな手足、見事に不健康そうだ。
「……誰?」
「あーあ、見つかった」
「は?」
面倒くさい、そう言わんばかりの大きなため息をつくジェイド
「アッシュ、帰るぞ」
「え?」
僕はジェイドに手を引っ張られながら部屋を出る。
不振な男とすれ違うとき彼はクマのある目を見開いてこう言った。
「偽善者め…」

ドクン…と無い心臓が音を立てた。
最後まで僕らを見ていたその目は悲しみと殺意に溢れていた。



ギゼンシャ……僕が?