先ほどまでガランとしていた客席は一つ残らず埋まっていた。
「……嘘でしょ?」
「いいや」
「ありえない…」
僕が出来事についていけないのを横目にジェイドは口元で笑みを浮かべていた。
「ま、楽しめよ」

人々の驚きと歓声はテントいっぱいに響き渡り中には立ち上がる人も居た。
…こうなる前の記憶は僕にはないけど楽しめるものは楽しんでおこう…。
だが、僕の横では楽しんでおけと言った本人が髪をいじりながらただ真っ直ぐと表情一つ変えないでサーカスを見つめていた。

「……とりあえず、ここまでか……アッシュ、トランク」
「え?」
「さっき渡したろ?出て来いとでも思えば出てくるから。」
「いや、でも、なん…」
「早く」
淡々と言った。
「……?」
僕はトランクを出して鍵を開けた。
「本、開いてみ?」
本を手に取り最初のページを開いた。
「……あ」

《皆に慕われるのはとても嬉しい事だ。
私の周りには人が絶えない…皆、私を頼りにしてくれる。
誰かが落ち込んだらソレを取り除いてあげたい。
そうすればまた元気になってくれる。
そして、もっと私を好いてくれる。
こんなに幸せなことはない…。
私は笑っていよう…皆が好きだから…。》

「これは…」
「こいつの言葉さ…とても、いい奴だな」
その割には棒読みだな、と思いながら次のページを開いてみる。
「あれ?真っ白なんだ?―――ねえ、コレだけでどうしろと?」
「サーカス終わったらピエロのトコ行くぞ、アッシュ」
立ち上がって両腕上げて体を伸ばす。
(……また話しかみ合ってないし…。)
僕は大きくため息をついて立ち上がった。
「あ、駄目だ…一旦出なきゃ」
「え?」
「帰るぞ」
「はあ?」
「さて…」
……チョットは説明しろってーの!
「ちょっと待って!!」
「あ?」
「ピエロの所、行こう!」
「いや、行っても…」
「いいから!!」
僕は声を張り上げた。
ここまでほとんど何も聞かされてないのに今度は帰る?……ふざけるな。
「…はあ、はいはい」
ジェイドは軽く両手を上げて降参のポーズをとった。
そんな僕らを周りの人々が何事かと視線をやった。
「……はずかしー。」
呆れたようにジェイドが言った。
「誰のせいさ?」
「はーい…」