扉の中はとてもにぎやかだった。
光のと音の洪水、その中心にはサーカステントらしき建物があり屋根の上でピエロの看板があった。
「…何コレ?」
テントを見上げて僕は言った。
「サーカス、だな」
同じく見上げて答えた。
「いや、それはわかってるよ」
「じゃ、何よ?」
「……どこに仕事する必要があるのさ?もしかしてなんかの雑用?」
首をジェイドの方へ向きなおす。
「とりあえず中入るか」
スタスタとテントの中に入って行った。
「あー、もう…説明くらいしてよね」
が、それはもうあまり望めないであろうと僕は思った。
「…ピエロ、か」
屋根の上で笑うピエロの看板が少し悲しげに見えた気がした。


「いらっしゃあい!ボク!」
中に入るなり太ったピエロが出迎えた。
(ビックリした…。)
「今日はお一人ですかぁ?それともさっきの人のお連れ様かな?」
白塗りのピエロはニコニコと僕を見ている。
「あ、えっと…はい」
「ではこちらへ!楽しいひと時をお過ごしください!」
頭をふかぶかと下げて奥を手で指した。
「もうすぐショーが始まりますので」

「お、アッシュ!こっちこっち!」
ガラリとした観客席の前の方からジェイドが僕を呼んだ。
「…だれも居ないの?」
横に座って周りを見渡すが僕ら以外誰も居ない。
「ま、良いじゃないか?のんびり観れて、貸切状態!しかもタダ!こんな贅沢は無いぞ!」
笑いながら僕の背中をバシバシ叩いた。
「でも、仕事…」
「そろそろ始まるな」
「……」
僕はステージに目をやった。
すると辺りは暗くなり中央にスポットライトが当てられると同時に先ほどのピエロが頭を下げて立っていた。
顔を上げて高らかに言う。
「皆様!本日はお集まりいただきまことにありがとうございます!」
(僕らしか居ないけどね…)
「こんなにたくさんのお客様に囲まれて!幸せで今にも倒れてしまいそう!」
(やるほうも大変だな…こんなにガランと……―――え!?)