ナデシコの唇と、崎冬馬の唇が重なった。
朝よりも、長い時間だった。
ここがギャンブル店だということを思わせないくらい、廊下は静かだった。
2人の息の音が響く───
ナデシコは、自分がもう立っていられない状態だということに気付かなかった。
甘いキスに酔いしれ、自然と床に崩れ落ちた。
それを優しく崎冬馬が支える。
ナデシコは、崎冬馬に体重を預けた。
意識もだんだんと遠退いてきた。
まるで、宙に浮いているかのような、ふわふわとした感覚に、ナデシコの身体中の力が抜けた。
「雅……。大丈夫か?
また俺の家、来るか?」
ナデシコは静かに頷く。
「………うん。」
冗談で言ったつもりだった崎冬馬は、逆に驚いてしまった。
「は?
マジで?お前、親は?」
「お母さんは今日から婦人会のお泊まり会なの…」
「親父は?」
「あ…れ?先生知らないっけ?
あたしお父さん死んじゃっていないんだよ?」
「そうか……ごめん。」
「あはは…大丈夫だよ。もう10年位前の話だし……」