塀の向こうから、蝶を追いかけやってきた青年は、「セナ」と名乗った。

できれば、どこのセナさんなのかを教えて欲しかったが、何だか取り込み中らしい。

「は、早く向こうへ戻らないと!」と、あせって塀に飛びつくが、見ていられないほどのへっぴり腰で、よじ登ることは難しそうだ。

「人を呼んできましょう」

回れ右した途端、必死の形相でとめられた。

ひょっとすると泥棒かも知れない。

でも、こんな、へっぴり腰の泥棒が、いるものだろうか。

どうしたものかと困惑していると、いきなりぽんと手を打って、邪気のない笑みを向けてきた。