2人きりで車に乗り込む時に、俺は柄にもなくまず照井さんのために助手席のドアを開けてあげた。



なんだか、自然にそうしてしまいたくなるようなタイプっていうかね…別に、そういう女の子のほうがいいとかいう意味じゃないけど。



照井さんのお兄さんの家はホントに近くて、わずか5分で着いてしまった。



その間、ホントは特に話すこともなかったけど、照井さんはこっちが申し訳なくなるくらい申し訳ながってくれちゃってて、なんか面白い話でもしなきゃ!という気持ちになった。



けど人間、面白い話しなきゃって切羽詰ってる時に面白い話なんか浮かんでこないもので…結局は地味な話に。



「照井さんは普段学校以外では何やってるの?」



「あ、バイトはまだしてないんです。私、不器用だし…」



「そうなんだ?でも俺もすごーい不器用だけど、バイトなんか全然気にしないでやっちゃってるよ」



「へー、偉いんですねぇ園田さん。。。」



「偉いとかじゃないって!やっちゃえばなんとかなるかなってくらいの気持ちでやってるだけだし!」



へ~、とまた言って、尊敬の眼差しでこっちを見られると、なんだか照れくさくなる。バイトって、そんな大仰なことじゃないぞ!?まさかほんとーにお嬢さまなんだな。。



「なんなら、照井さんもうちでバイトしてみたら?人手足りないって言ってるから」



「そ、そうなんですか??」



「あ、でも、髪に変な匂いついたりとかするかもしんないし…そういうのやだったら…」



「あたし、そーゆーの全然気にしないんです!やってみたいな。。」



「あ、ごめん、もしかしてこのマンション?」



実はもうちょっと話したいかなーなんて思ってたけど、照井さんのお兄さんの家に着いてしまった。このへんにこんな豪華なマンションがあったなんて…



お兄さんに散々感謝されて、俺はマンションを立ち去った。



学校で会いましょうね、という照井さんの言葉と白い顔が、なんだか頭に焼き付いていた。