いろいろなお陰でわたしは、独り遊びが得意だった。

ハサミに、お絵描き。マイブームはうがいだった。
『ゴロ×2♪』という音が大好きだったからだ。


早く大人になりたかったわたしは、母の真似をよくした。

かかってもいない電話の受話器をあげて
『もちも~ちぃ?』
と言ってみたり

ブカブカのハイヒールを履いてみたり

真っ赤な口紅を塗って、「まぁまぁ似合うやん」と思ってみたり。
とにかく、それなりに様になってると思いこんでたんだから恥かしい。


ある日、母とお昼寝をしていた時のこと。

寝かし着ける前に母が眠ってしまい、わたしは暇を持余していた。
お絵描きも朝にすませてしまい、やる事がなくてうがいでもしようかとお風呂場に行った。
うがいの準備をする為に、背伸をして鏡の前のコップに手を伸ばした。

するとそのコップには、毎朝父が使っている物が刺さっていた。

わたしはよく、父が毎朝気持ち良さそうに「スッスー」と顎に滑らしているのを見ていたのだ。

思わず自分もやりたくなってしまい、母が眠っているのを確認してからコップの中の物を手にとった。

台に上り、さらに少し背伸をした。

わたしはそれを下唇の下に置き、そのまま下に滑らした。

すると「ズズズッー」と、決して滑らかでない動きをした。

鏡を見ると、顎に三本の赤い線がラインをひいていた。

わたしビックリして慌ててティッシュで顎を押さえた。

予想と違う動きにショックを受けたのと、母に叱られるという焦りで痛みは感じなかった。