兄はよく母に叱られていた。

兄はあんぽんたん(バカ)だった。


学校にトランシーバを持って行って、母が先生に呼び出しをくらう。
そこで一発!!
大きな指輪をした右手で平手打ち。

友達の背中に毛虫を入れて再び呼び出し。

そしてまた一発!!

その後、何故かその友達と和解して何ごともなかったかの様にみんなで仲良く帰った。


身体が硬かったからか、和式のトイレが使えなくて学校で大きい方ができず、
休み時間を見計らって学校を抜け出して、よくトイレをしに家に帰ってきた。

息を切らして帰ってくる兄を、母は叱らなかった。


兄思いのわたしは、
二三歳の頃からよく兄をかばった。

『お兄ちゃんを怒らんといてぇぇーー』

この恩は未だ兄から返ってこずだけど、母は今だにその健気だった頃のわたしを讃えてくれる。


スーパーに行くと必ず、わたしは一目散にお菓子コーナーに走った。

欲しいとは言えず、
手に取っては直し、それを気付いてくれと言わんばかりに繰り返した。

母の気分の良い時は、たまに買ってもらえることがあった。

その時は必ず兄の分も一緒におねだりした。
母はわたしを兄思いの良い妹だと思っていたと思う。

でも、そこには小さなわたしが考えた策略があった。