「桜井、何かあるなら話聞きますよ。ん?」

麻紀はしばらく下を向いていた。

先生が諦めてどこかへ行ってくれることを願った。

しかし、先生は麻紀の前から一歩も動こうとしない。

先生は今、どんな表情をしているのだろう。

ふと、気になってそっと顔を上げると、心配そうに麻紀を見ていた。

急に恥ずかしくなってきた麻紀は、また下を向いた。

「あ、の・・・・・・大丈夫です私。たいしたことじゃないんで・・・・・・。」

先生は「そっか。」と言って、麻紀の目の前に細くて長い人差し指を突き出した。

「わかりました。でも、無茶はしないと約束してください。俺も心配なので、ね。」

先生は、にぃっと笑って麻紀の目を覗き込んだ。

麻紀はもう先生から目が離せなかった。

麻紀の視線に気付いた先生は、もう一度ふわっと笑って言った。

「もうすぐチャイムが鳴りますよ。行きましょう。」

麻紀は何も言えないまま、小走りで先生の後ろをついていった。

もう、手は震えていなかった。