麻紀は、黙って日和の顔をじーっと見つめてから、悩んだ挙句小さな声で

「・・・・・・あの人と、別れた。」

と告げた。

日和は、一瞬驚いたような顔をしてから、困ったように微笑った。

そして、小さく「そっか。」と言っただけだった。

何となく空気が重くなってしまって、沈黙が二人の間に流れる。

それを破るかのように、予鈴が鳴った。

日和は「じゃ、また。」と笑って、席へ戻っていった。

続いて麻紀も席に着く。

しばらくすると、担任が教室に入ってきた。

「席着けー。新しく赴任された先生を紹介するぞー。ほら席着けー。」

担任の低い大きな声が、ざわめく教室に響く。

生徒は自分の席に戻りながら、ドアの向こう側の新しい先生を気にしている。

全員が席に着いたところで、担任が廊下にいる先生に声を掛けた。

皆の視線がそこに集中する。

「中原 由貴(ゆき)先生だ。」

担任に紹介を受け、中原という先生が教室に入ってくる。

若い、男の人・・・・・・。

女子が騒ぐ。

周りから聞こえてくる「かっこいいねー。」という言葉。

だけど、麻紀はそんなの気にしていられなかった。

昨日、自分を助けてくれた人物がこの人だったのだ。

麻紀は、驚いて叫びそうになったが、ぐっとこらえて彼を見つめる。

そして、ふと、先生と目が合った。

先生は目を丸くしている麻紀を見て、少し口元をゆるませた。

「中原由貴です。今日からこのクラスの副担任を努めることになりました。皆さんどうぞ

よろしく。」

麻紀は、自己紹介する先生の姿をじっと見つめていた。

まさか、こんな出会いがあるなんて・・・・・・。