「死にたかったの?」

自分の心に問いかける。

YesともNoとも答えてくれない心の中の自分。

それが、びっくりした。

死にたかったから、赤信号を渡ろうとした。

なのに、それをすんなりと肯定できない自分がいた。

―あの人が、助けてくれたから。

そうだ。

あの人が助けてくれなかったら、きっと自分は今ここにいない。

短い生涯を終えていたと思う。

だけど、見ず知らずの人が自分を助けてくれた。

これも、麻紀にはやっぱり"運命"としか思えなかった。

まだ自分は死んではいけないのだ。

そんな思いが、心の中に強く存在していた。

ふと、ショーウィンドーに映った自分が目に入った。

洋服はよれよれだし、髪もぐしゃぐしゃで相当ひどい。

だけど、さっきよりも大分吹っ切れた表情をしていた。

前向きな瞳になっていた。

紛れもなく、自分だと思えた。

疑いなんて、持たなかった。

空を仰ぐ。

見事なまでの夕焼けが広がっている。

麻紀は、自分の意思でゆっくりと歩き出す。

一歩。また、一歩。

そうして、自分の家を目指した。