麻紀が答えると、先生は先ほどの麻紀を思い出して、ゆっくりとおまじないをかけ始めた。

目を瞑った先生の大人っぽい横顔から、麻紀は目が離せなかった。

ドキン、ドキンって旨が音を立てる度に、息苦しくなるし、顔はカァっと熱くなる。

瞬きをするのも勿体ないくらい、綺麗な先生の姿に麻紀は完全に見惚れてしまった。

ちゅっ・・・・・・

先生が、細くて長いゴツゴツした手にそっとキスをした。

その瞬間、心臓がうるさく飛び跳ねた。

先生のキスはすごく大人っぽくて優しくて、なんだかすごく興奮してしまう。

先生とキスしたら、どうなってしまうのだろう。

考えただけで失神してしまいそうになる。

麻紀は真っ赤な顔をして、ずっと先生を見ていた。

「―どうかしました?」

視線に気付いた先生が麻紀に言う。

麻紀がハッとして意識を取り戻し、普通に取り繕うとする。

すると、先生が麻紀の髪をくしゃっと乱して、いたずらに笑った。

「見惚れちゃいましたか?」

「!!」

麻紀は、恥ずかしいやら何やらで焦る。

その様子を見ていた先生が、くっくっく・・・・・・と声を殺して笑う。

何だか悔しい気持ちになった麻紀が先生を見上げて言う。

「何がおかしいんですかぁっ。先生のいじわる!」

ぷいっと拗ねてみせる麻紀は子供っぽいけど、すごく可愛い。

先生は一瞬、そんな麻紀にキュンとして言葉を失くしたが、またすぐに余裕を取り戻した。

「もう暗くなりますよ。帰りましょう。」

「・・・・・・先生は、いつも余裕なんですね。」

少し不満を残した瞳で、麻紀は先生を見つめる。

先生はキョトンとして、またすぐに優しく笑った。

「そうでもないですよ。さ、行きますよー。」

うまく、はぐらかされたようだ。

だけど麻紀は、はぐらかされていたことにしようと思い、屋上の出口で待っている先生の側に小走りで近づいた。

「先生。」

「はい。」

「・・・・・・いつか、きっと先生を慌てさせてみせます。」

「ほぅ。それは楽しみですね。」

先生はまた、余裕な微笑を浮かべていた。