すると、教室のドアがコンコンと高い音を立てた。

ふと、麻紀が顔を上げると、前のテストの時間に隣のクラスで監督をしていたらしき中原先生が、ドア越しに麻紀を見つめていた。

そして、口ぱくで"がんばれ"と先生が言って微笑った。

麻紀は嬉しくて、一瞬身動きが取れなかった。

先生はすぐに通り過ぎてしまったけど、麻紀は先生のいたドアの向こう側を見ていた。

ドアの窓越しに見えた空は青くて、眩しくて、麻紀には希望しか見えなかった。



テストを終えて放課後。

準備室に行くと、先生は「採点中なので」と中には入れてくれなかったが、代わりに屋上へ連れて行ってくれた。

「テスト、どうでした?」

煙草を吸いながら先生が訊く。

「なんだかいけそうですっ!先生、まだ私のテスト採点してくれてないんですか?」

上目遣いで先生を見上げると、先生はにぃっと笑った。

「はい、まだです。あなたのクラスは一番最後にまわしました。その中でもあなたのは一番最後に見ます。」

「それは何故ですか?」

「お楽しみはとっておきたいんです。」

そう言った先生は、本当に楽しそうだった。

「じゃ、九十点以上取れていますようにってお祈りしておきます。」

麻紀は青い空に祈りを捧げて、顔の前で組んだ手にそっとキスをし、おでこに当てた。

「それは何です?」

麻紀の行動を隣で見ていた先生が首をかしげる。

「強力なおまじないです♪」

「ほぅ。」

先生がわざとらしく感嘆の声を上げる。

「すごいんですよ?この高校に入れたのもこのおまじないのおかげだと思ってます。」

麻紀がウインクしてみせると、心なしか先生の顔が赤くなった。

「誰かに教えてもらったのですか?」

先生はよほどこのおまじないに興味があるらしい。

「はい。小さい頃、祖母に教えてもらいました。」

「ふむ。じゃあ俺もやってみましょうか。いいですか?」

ちらりと横目で麻紀を見た先生の瞳に好奇心に似た感情が隠れている気がした。

「どうぞ。」