「・・・・・・でも、もし私が点数取れなかったら、先生もデートできないじゃないですか。」

火照る顔をパタパタと手であおいで冷ましながら麻紀が言った。

「そうですね。」

「先生は・・・・・・」

”嫌じゃないんですか?”と訊こうとしてハッとした。それじゃあまるで、先生も自分とデートがしたいと思っているみたいではないか。麻紀はそんな自分の自意識過剰具合に再び赤面する。

「・・・・・・何です?」

途中で言葉を詰まらせた麻紀を見て、先生が言った。

麻紀は何て言ったらいいのかわからず、困ったように黙って先生を見上げる。

先生はじっと麻紀を見つめ返し、微笑う。

「だから、頑張って九十点以上取ってください。」

”だから”とは、どういう意味なのだろうか、と麻紀は思った。

「・・・・・・どういう意味ですか?」

”先生もデートしたいから点数を取れ”って思ってもいいのですか?

少し期待が入り混じった瞳で麻紀は先生を見つめる。その表情は真剣そのものだ。

先生は「んー・・・・・・」と少しじらしてから、麻紀に背を向けて小さく呟いた。

「・・・・・・ま、そういうことです。」

麻紀は今すぐ飛び跳ねて踊りまわりたい程嬉しかった。

それはもう言葉にできない歓びだった。

「先生!先生!!」

ガラにもなくはしゃぐ麻紀。先生は振り向かずに煙草なんて吸っている。

「私、絶対九十点以上取ります!ああ、先生の今の言葉だけで満点取れそうです!!」

麻紀があんまり嬉しそうに言うから、先生は恥ずかしそうに長くてサラサラな髪をくしゃくしゃして、

「ほんと素直っていうか単純っていうか・・・・・・俺が照れます。」

と言って、麻紀を振り返って微笑った。

その先生の表情がめずらしく恥ずかしそうで、耳が赤くなっていた。

麻紀はそれがすごく嬉しくて、幸せそうになにかんで笑った。

先生は内心、そんな麻紀が可愛くて、余裕な表情なんてできない程焦っていた。



その日から、麻紀はまた更に気合を入れて勉強した。

そして定期テスト当日。

次はいよいよ化学のテストだ。麻紀は休み時間中ずっと、一番廊下側の一番後ろの自分の席で勉強していた。