「・・・・・・ありがとう。」

"ごめんね"とは、言えなかった。

彼女が可哀想でならなかった。

麻紀は、無理やり涙を拭うと、とても哀しく、そして綺麗に笑った。

「先生、ごめんね・・・・・・?ごめ、なさ・・・・・・。」

もうこれ以上、先生の顔は見られなかった。

麻紀は先生に背を向けて全力で走っていく。

その切ない後ろ姿が見えなくなるまで、先生はただじっとその場に立ち尽くしていた。




その晩、麻紀はふらつく足取りで何とか自宅まで辿りつくと、夕飯も食べずにベッドに

もぐりこみ、家族に気付かれないよう声を殺して泣いた。

本気で先生とどうにかなるなんて思っていなかった。

しかし、全く期待していなかったわけではない。

その結果が、現状(コレ)だ。

元彼のときよりも、ずっと苦しくて重い気持ち。

だけど、元彼のときとは決定的に違うものがあった。

哀しいけど、それ以上に"先生が好き"という想いが強いのだ。

どうにもならないと分かっていながらも、先生を想う気持ちは止められなかった。

「先生・・・・・・。」

毛布に包まって小さく呟いた。

皮肉なことに、先生の笑顔ばかりが頭の中いっぱいに広がって、愛しい気持ちが溢れて

きてしまった。

麻紀が、泣き疲れて眠ったのは明け方のことだった。

次の日は幸いなことに日曜日。

学校は休み。

涙でパンパンに腫れた赤い目を、先生に見られなくて良かったと思った。

冷やしたり、蒸しタオルをあてたりして、麻紀は必死に元の顔に戻した。

明日、先生に会えるように。

昨晩、麻紀は泣きながら思った。

"これ以上、先生を困らせてはいけない。自分は大勢の中の一人に過ぎないのだから。"

だから、麻紀はもう先生に涙は見せないと決めた。

そすると、今のうちに思いきり泣いておこうかという気持ちにもなったが、せっかく目

の腫れが引いてきた自分の顔を鏡越しに見て、やっぱり止めておこうと思った。