「何か言ってください。分からないでしょう?」

そう言いながら、先生が麻紀に歩み寄る。

すると、麻紀は先生から後退った。

先生の足が止まる。

「先生・・・・・・。」

やっとのことで絞りだした声は、消えそうで情けなかった。

「・・・・・・彼女いるんですか・・・・・・?」

顔は上げられなかった。

先生は今、どんな表情をしているのだろう。

先生が、ためらいがちに答える。

「はい、いますよ。」

美紀がハッと顔を上げると、困ったような目をしている先生とばっちり目が合った。

その表情で"真実"だということが読み取れた。

麻紀は、強いショックを受けた。

「・・・・・・っ・・・・・・。」

止まらない涙はまるで、先生への思いが溢れているかのようだ。

どうしようもない。

だって、

止めようがない。

本格的に困った先生が麻紀に言う。

「・・・・・・もう暗いから送りますよ。」

しかし、麻紀は首を大きく横に振った。

「せんせ、ぇ・・・・・・?」

「はい。」

「・・・・・・たし・・・・・・。」

「うん。」

「・・・・・・先生が、好きです。・・・・・・好きなんです・・・・・・。」

ついに言ってしまった。

もう黙っていられなかった。

頬を涙でいっぱい濡らしながら、一生懸命麻紀は言った。

これが、精一杯だった。

先生は自分の目の前で、自分を好きだと泣く生徒が切なくてならなかった。

だけど、自分は何もできない。

慰めることすら、できないのだ。

先生、自分の手を強く握りしめる。

そして、哀しく微笑った。