「褒めてるんですよ。」

くすくすと大人っぽく微笑う先生とは大違いだと改めて実感する。

「嬉しくないです!」

そんな風に話しているうちに、目的地の準備室に到着した。

「そういえば、この間の悩みは解消されました?」

準備室の鍵を外しながら、何気ない口調で先生が訊いた。

そこで、麻紀はハッとした。

先生はずっと、あの時のことを気に掛けてくれていたのだ。

思えば、準備室に行ったあの翌日から、今みたいに先生が話しかけてきてくれるように

なった。

それに気付いて、麻紀は何だか嬉しくなった。

「大丈夫です。あれは、何ていうか・・・・・・心が弱っていた時だったので。」

正直、あの時のことは麻紀自身あまりよく分かっていない。

何て説明したら良いのか分からなくて言葉を詰まらせると、

「もう困っていませんか?」

と、先生が言ってくれた。

麻紀は、小さく頷いた。

すると、先生は麻紀の頭をくしゃっと撫でて笑った。

「なら、よかった。」

先生の笑顔はずるい。

すごくドキドキして、胸が苦しくなる。

煙草なんて大人の香りをさせているうえに、クラクラする程笑顔が優しい。

「お手伝いは終了です。ありがとうございました。」

準備室の中のデスクにドサッと資料をおいて先生が言った。

「"ありがとう"って・・・・・・私、何もしてないです・・・・・・。」

手伝うといったくせに何もしていなかった自分に気付いて、麻紀はきまり悪そうに下を

向く。

「俺の話し相手になってくれたでしょう。それだけで充分です。」

先生の言葉に、麻紀は顔を上げた。

先生はわざとっぽく、おちゃらけて笑う。

「現役ジョシコーセーとこんな風に話せるのは、教師の特権です♪」

そんな風に言ってくれた先生が妙に嬉しくて麻紀は笑う。

「先生って、大人ですね。」

「そうですか?まあ、もう"子ども"と呼べる歳でもないですしね。」

準備室の窓を開けて」、先生がYシャツの胸ポケットからライターと煙草を取り出す。