「まあ、それが嫌なら無理にとは言いませんが?」

そう言う先生の目は、何もかもを見透かしているようだ。

「しょうがないですねぇ!先生も一緒なら喜んで」

麻紀はそんなことを言いながらも、笑顔だ。

内心は、先生とこういう会話ができるのが嬉しくてたまらなかったのだ。

「ありがとうございます。じゃあ、コレをお願いします。」

先生は、にっと笑って重い資料を麻紀に持たせた。

「先生っ!コレ、重すぎ!!」

「頑張ってください♪」

先生は、麻紀をからかって楽しんでいるようだった。

「先生、何も持ってないじゃないですかぁっ!これじゃ、手伝いじゃなくてっ・・・・・・。」

予想外の重さにヨロヨロしながら意見する麻紀。

先生は「仕方ないですね。」と呟いて、麻紀が持っている資料をヒョイっと奪って軽々

と持ち、麻紀の先を行く。

「桜井さん、力なさすぎです。鍛えたらどうです?」

いじわるを言う先生は、楽しそうにケタケタ笑っている。

恥ずかしくなった麻紀は、小走りで先生に追いつき、隣に並んで歩く。

「先生は、力がある女性がお好みですか。」

わざと頬をふくらませて、すねたような表情をする麻紀。

「そうですねぇ。ま、力があるに越したことはありませんが、女性はか弱いのも可愛い

ですよ。」

横目で先生が麻紀をみる。

完全に子ども扱いをしてからかっている。

・・・・・・悔しい。

「・・・・・・じゃあ、力がない私は可愛いですか?」

ほんの冗談のつもりだった。

先生の返事は期待していなかった。なのに、

「可愛いと思いますよ、俺は。」

先生は即答でそう答えてくれた。

麻紀は嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔を真っ赤に染める。

その反応を見た先生は、声を出して笑った。

「単純ですね。おもしろいです。」

「おもしろくなんかないですぅっ!」

口をいーっと広げてみせる。

我ながら、なんて子どもっぽいのだろうと思った。