「んー熱はありませんねぇ。どこか具合悪いところとかあります?」

先生は真剣な表情で麻紀の目をのぞき込んだ。

麻紀は、ガタンと席を立った。

「大丈夫です!今日は、すみませんでした。それと・・・・・・迷惑じゃないって言ってくれた

こと、嬉しかったです。ありがとうございました。」

真っ赤な顔をしながら、麻紀は先生にペコッと頭を下げてドアに近づいた。

そして、ドアに手を掛けた時、麻紀は少し上目遣いで先生を振り返る。

「あ、あの、また来てもいいですか・・・・・・?」

先生は、にっこりと笑った。

「どうぞ。いつでもお待ちしていますよ。」

麻紀は、先生の言葉と笑顔が嬉しくて、思わず顔をゆるませた。

準備室を出る時、麻紀は小さく笑った。

「さよなら。」

「さようなら。」

優しい声だった。

人のいない放課後、静まり返った廊下を足早に進んでいく。

ドキドキ。

心臓がうるさい。

顔が火照るのを隠すように、麻紀は風を切って走った。



準備室に行ったあの日から、麻紀はずっと先生のことが頭から離れなかった。

「桜井さん、この資料を運んでくれませんか?」

移動教室から戻ろうとしていた麻紀を引き止めた先生。

麻紀は一緒にいた友達の側を離れ、先生に近づいた。

友達に「先に行ってて。」と謝ると、すぐに先生と二人きりになれた。

先生が、もう一度言う。

「俺を、手伝ってくれます?」

先生は、いたずらに微笑う。

もう麻紀の気持ちは、先生にバレているのだろうか。

「・・・・・・・手伝うってことは、先生も一緒ですよね?」

少し上目遣いで先生を見つめる。

先生は、わざと困ったようにハニかんで笑ってみせた。

少し長めの髪を、先生はくしゃくしゃっと乱す。

その仕草さえもかっこよくて、麻紀はキュンとする。