そして、彼女がお茶請けにだしたお菓子も、ものすごく甘い。
輸入商品の店で買ったものらしく、ショッキングピンクの箱に、ミントブルーやイエローの妖精が描かれている。
カラフルなマシュマロに、色付きの砂糖をまぶしたものらしい。
パッケージで微笑む妖精は、先に星のついた細い棒を持っている。
星のてっぺんからキラキラの粉がでているらしく、それを花に振りかけている。
つまり、このマシュマロにかかっている砂糖は妖精がかけた魔法の粉と言ったところか。

「うん、美味しい!」
こんなものを美味しいと思う彼女は、やっぱり何かがおかしいのかもしれない。
僕はこの小さなマシュマロの半分で充分だ。
先ほど、あんなに甘いと感じたココアが苦く思えた。なる程、こういうつもりだったのか。

僕の倍のスピードでマシュマロを消費している彼女をちらりと見やる。 彼女は自分の半分のスピードでマシュマロを消費している僕と目があった。

「今日はね、」
普通の女の子より、すこしぽちゃぽちゃした指で口元を拭って、彼女は笑う。
「甘いものパーティーなのよ」
「それなら、いつもそうじゃないか。」
すかさず反論する
「今日のために貯金を全部おろして、お菓子を買ったの。まだまだ、いーっぱいあるのよ」
思わず顔をしかめる。
世界が終わる前に、僕がもう終わってしまっているかもしれない。
そんな僕の不安をよそに彼女はひとつ欠伸をして、こてんと横になった。
昔飼っていた猫を思い出した。真っ白でまるまると太った猫、白いから名前は「しいちゃん」、いつも母の作ったクッションの上で、うつらうつらと舟をこいでいて、起きてすることと言えば、餌の催促。缶詰めの餌をペロリと平らげると、また定位置に戻っていく。 母親の愛情を一身に受け、僕がカップラーメンを食べているときに、刺身やら生ハムやらアイスクリームやらをたらふく食べて、順調に太ってゆき、僕が高校生になった年の秋にその人生(猫生というべきか)を終えた。僕が生まれるより5年も前に生まれたらしいから、だいたい20歳、大変な長寿だったということだ。