「おい、ヘタクソッ!!」



ふいに、背後から聞きなれた声が飛んでくる。

あたしは条件反射で声の方向を向いた。


こげ茶色の短髪、スカした顔。

その全てがあたしの神経を逆立たせる。



「お前のカスカスな音よりマシ! うざい! 死ねっ」



あたしは大声で怒鳴り散らした。



「は? お前、楽譜も読めねぇくせに!」


「黙ってくれるかしら高永くん」


「お前の言うことなんか誰が聞けるかっ」



言い争っている内に、周りの視線が刺さっていることに気がついた。


あたしは慌てて口をつぐむと、高永をキッと睨んで楽器の作業に戻った。



「優夜ぁ、またやってるね」


「あ、亜子」



苦笑いしながらこっちに来たのは、親友の亜子。


クラリネットが上手で、面倒見がいいお姉さん的存在。


ちなみにあたしはトロンボーンで、あのうざい高永はテナーサックス担当。