「怒った?」

「怒ってなんかいない……」

言いながら、彼女は黙ってイモの皮を剥き始める。

彼女を怒らせてしまったのかもしれない。何故だか鼓動が早くなった。

「もう、からかうようなことしないから機嫌直してよ。ごめん……」

俺は少しうろたえながら軽く頭を下げた。すると彼女は手を止めて包丁を置き、俺の前髪をフワッとかき上げながら髪をゆっくり撫でて、なにも言わずにニッコリと笑った。

──彼女に髪を撫でられた瞬間。

──彼女の笑顔を見た瞬間。

心臓が止まるかと思った。

なんだろう? この感覚は……

今日の俺、なんかおかしい。