でも、なんだろう。彼女と自分の違いが……住む世界の違いをはっきりと思い知らされたような気がして、少し寂しくなった。

「全部あなたのお陰だわ。ありがとう」

そう言って深々と頭を下げ、「それで……」と真面目な顔で言葉を続けようとする彼女に、俺は

「『どこか遠くでやり直す』とかいう話なら聞かねぇよ」

と、すこし冗談めいて言った。

別に、本当に彼女が遠くに行くことを考えているだろうとは思っていなかった。ドラマなんかでありがちな『離婚後に見知らぬ土地でやり直す』なんてパターンがふっと頭に浮かんだだけで、ほんのウケ狙いのつもりだった。

ところが、どうやらその言葉は的確だったらしい。

一瞬彼女の表情が曇ったのを、俺は見逃さなかった。