ケータイに見たこともない番号から電話が入ったのは、3月の頭のことだった。
「誰だよ。こんな早くに」
午前8時14分。特に早い時間ではなかった。
しかし大学が休みでのんびり寝ていた俺は、その音に起こされ非常に腹が立った。
電話の相手が全く誰だか見当がつかず、とりあえず留守電に切り替えてみる。
「もしもし……?」
心臓が大きく反応した。
間違いなく彼女の声だ。約2ヶ月ぶりの声に、俺は咄嗟に動くことができなかった。
思っていたよりずっと早い彼女からの電話。夢なのか、現実なのか分からなくなり、頭が混乱した。
「向井さんのケータイでしょうか?」
彼女はとても堅苦しい声で、事務的に自分の名前を名乗る。