「俺、昨日実家に帰ろうと思ったんだ。あんたの喜ぶ顔、見たくて。帰る口実におもちゃなんか買いに行って! そしたらあんたの旦那が、いきなり話しかけてきたんだ。子供ができたって、すげぇ嬉しそうに。笑っちゃうよな。俺、あんたの旦那だって知らずに話しちまったよ。赤ん坊の靴下なんか一緒に眺めながらさぁ!」

怒鳴り散らす俺とは対照的に、彼女はとても落ち着いていた。動揺している様子も見られなくなった。

「そう……なの」
事実を知られて開き直っているのとは、また違う変な落ち着き。

彼女は口元に微かな笑みを浮かべ、何故だかホッとしているようにも喜んでいるようにも見える。

「よかったじゃん! あんたも幸せなんだろ?」

そんな彼女の態度が気に入らず悪態をつきまくる俺を、なにを思ったか彼女は突然包み込むように抱き締めてきた。思わぬ彼女の行動に一瞬言葉を失った。

彼女の香りや、とても早く鼓動している彼女の胸の音を体で感じ、刺々していた気持ちが急に泣きたいぐらいの切なさに変わる。

「は、離せよ」

口だけは精一杯強がってみた。しかし、彼女の手を振り払うことはできなかった。