「昨日俺さぁ、あんたが気持ちを受け入れてくれた記念にお揃いのカップを買いに行ったんだ」

沸いたお湯をカップに注ぎながら、必要以上に大きな声でそう声を掛ける。

彼女はその声にビクッとして出しかけた手を引っ込めた。

「これ、いい感じだろ?」

コーヒーカップを両手に持ち、テーブルへと運んで刺々しい口調で彼女に尋ねる。彼女は拾った何冊かの教科書を自分の横に置き、表情をなくして俯いていた。

「今日は……帰った方がいいのかもしれないわね」

ポツリと悲しそうに言った彼女を俺は抱き締める。
──櫻井の部屋の甘ったるい匂いが、すっかり移ってしまった服のまま。

「帰るなよ」

彼女は俺が他の女を抱いたことを分かるだろう。

その女の部屋から帰ってきたばかりのことも。

その上でわざと尋ねる。

「俺のこと好き?」

俺の残酷な質問に彼女はショックを受けているのか身動きもせず

「……元くん」

と、今にも泣きそうな声で俺の名を呟いた。