家に帰ると、マンションの前にすでに彼女の車が停まっていた。
車に近づき運転席の窓を軽く叩く。
彼女はこちらを振り向き俺の顔を見ると、嬉しそうな笑顔を見せ車から降りて来た。
「おはよう」
「……おはよう」
「少しでも長く一緒にいたいと思って、早く出てきてしまったの。でも、早く来すぎたみたいね」
少し照れながら笑う彼女の顔を見て、喜びより嫌悪感が先に立った。ショックが怒りに変わる。母親の妊娠を知ったときよりも、もっと激しいものだ。
彼女に旦那がいることを分かっていて好きになったのは俺の方だ。
自分だって、はじめのうちは彼女に会いながらエリナを抱いていた。
旦那がいれば昼間俺と過ごしたって、旦那に抱かれる日もあるだろう。それによって妊娠したとしても夫婦であれば当然のことだ。そのことを責めるのは間違っている。
けれども、腹にあの男の子がいるのに平気な顔で『少しでも長く一緒にいたい』と彼女は言った。そんな彼女のことが分からなくなってしまった。