「なぁ」

頭のスイッチが切り替わる。

ずっと演じてきたもう一人の俺──

「櫻井さぁ、『エグザ』のアルバム持ってるって言ってたよな?」

──ゴウ。

「うん。持ってるよ」

「貸してくんねぇ?」

「いいよ。じゃあ、明日」

「今から借りに行っていい?」

「え!?」

「借りたら帰るし」

「いいけど……」

俺の唐突な頼みごとに櫻井は戸惑っていたが、俺はそれに気づかないふりをして歩いた。櫻井のマンションは、彼女と初詣に行った神社の近くにあった。

「寒いから中に入って」

部屋に入ると、玄関で待つように言われた。櫻井の部屋は妙に甘ったるい匂いがした。