好きなときに彼女に触れ、好きなときに抱き締め、好きなときにキスをする。

それができるということ、彼女がそれを拒否もせずに受け入れてくれていること、ごく普通のカップルのようにいられる。それがとても嬉しかった。(もっとも、まともに女と付き合ったことがない俺には『普通』がよく分からないけれど)

幸せだった分、別れ際はいつにも増して辛かった。

「元くん、もうそろそろ行かないと」

「うん」

「またすぐ会えるわ」

「そうだけどさ」

バイトに行く時間になっても俺は、彼女を抱き締めたまま動けなかった。

「なぁ、わかってる?」

「ん?」

「俺がどんだけあんたを好きか」

「そうね。どれくらいかしら?」

俺の質問に彼女は首をかしげて笑う。なんだか軽くあしらわれているような気がして悲しかった。