「違うね! 離婚して俺と一緒に頑張って行こうって言ってたのに、あっさり子供産むって決めてさ! 俺のこと考えてんなら堕胎せばよかっただろ!」

「お母さんに子供ができたことは、元くんにとって、とてもショックだったと思うわ。でも、産むことを決意するまでには、色々悩んだと思うの。元くんのお母さんが産むことを決意したのは、命の大切さが分かっているからだわ。
お腹に宿った赤ちゃんが、数ヶ月すれば元くんと同じように生まれて、立派に成長する素晴らしさを知っているから。だから、お腹の子供を堕胎すことはどうしてもできなかったのよ……
命が宿るって、もの凄い奇跡のようなことなの。私が言っても、説得力はないかもしれないけれど……」

彼女の言葉を聞いて、背筋が凍り付いた。

小さな命を殺してしまったことで、ずっと心を痛めてきた人なのに。

堕胎せばいいなんて、彼女に言ってはいけないことを言ってしまった。

「俺……ごめん」

命のことを真剣に考えてきたからこそ出る、真っ直ぐな彼女の言葉。

それはとても重みがあり、興奮を冷ますのに十分すぎるものだった。