「ねぇ……元くん。大人には色々な事情があるわ。いくら相手を想っていても上手く行かなくなることもある。
確かに今は別々になってしまったかもしれないけれど、でもね……元くんが今こうしているのはご両親が愛し合っていたからだわ」

彼女は俺が怒鳴ったりしたことに動じる様子もなく、まっすぐ俺の目を見つめて、諭すように言った。

「でもさ！」

「ご両親に対して、不満に思うことは沢山あるかもしれないけれど、命を授けてくれたこと、きちんと産んで育ててくれたことは感謝しなければいけないと思うの。
それに、お母さんがおしゃっていたっていう、血筋だって大切なことだわ。あなたの命はご両親だけではなくて、沢山のご先祖様からの命を受け継いだものなの。今までのご先祖様が１人でも欠けたら、あなたは存在しないわ。だからご先祖様を守ることは大事だし、血筋を継いでいくのだって必要なことだと思うわ。
お母さんが元くんに向井のままいるように言ったのは、絶対に再婚することを考えてのことではなかったと思う。純粋に元くんのことを考えたからよ」