マンションの自転車置き場にチャリを停めた俺は、部屋がある4階まで階段を一気に駆け上がった。 

4階の通路の手前、階段の最上段で一度足を止め、そこから彼女の待つ俺の部屋の前まで、一歩一歩ゆっくりと歩く。

自分の家に帰るのに、こんなに緊張するのははじめてだ。

小さく息を吐いて気持ちを落ち着けてから、少し震える手でチャイムを押す。

俺の緊張とは対照的に、軽やかな音をたててチャイムが鳴り、中から微かに「はい」という彼女の声が聞こえた。

「お、俺」

ダウンのポケットに両手を突っ込み、落ち着かない気持ちを表すように体が揺れてしまう。

ドアチェーンを外す音。

ガチャリと鍵を開ける音。

心臓が大きく高鳴る。