待ちに待った午後10時。

「向井、お疲れさん。上がっていいよ」

そんな店長の言葉に、思わずドキッとしてしまう。

「はい! お疲れさまでした!」

俺はこれ以上ないくらい元気よく挨拶をすると、制服を急いで脱ぎ、チャリを飛ばして猛ダッシュで家へと向かった。

冷たい風が自転車のスピードに合わせて、凄い勢いで顔に当たる。

でも俺は顔が冷たくなるのも気にならないぐらい、気持ちが高ぶっていた。

マンションが見えて来たところで、なんとなくブレーキをかけて自転車を止めた。

思い切り自転車を漕いだせいなのか、彼女に会える喜びからなのか、どちらともいえない胸の高鳴りが、混ざり合って俺の中で暴れている。

彼女は本当にいるのだろうか。再び不安が頭をかすめる。


乱れる息と気持ちを落ち着かせようと、俺は道路に目線を落とし一つ大きな深呼吸をした。そして目をつぶり、心の中で「1・2・3」と数え、「3」と同時に目線を俺の部屋の窓に向ける。