2人、いるだろうと思うとなかなか足を進めることができなかった。

俺は別に悪いことしてるわけじゃないってわかってるけど今の香織ちゃんの心情を考えると・・・申し訳なくて。

でも早く行ってあげなければ。




昔の女に未練はない。

勝手に来ただけだ。


言う言葉を頭の中で考えて足を進めることに決めた。

香織ちゃんを守ろうと思って。


でも狭い部屋なのにやけに静かだなとは思っていた。

話し声が全く聞こえないし、テレビの音や音楽さえも鳴ってなかったから。


それだけ冷戦なんだろうとそのときは思っていた。



だけどそこで見たのはとんでもない状況だった。


血を流し、倒れている女。

そして横で呆然としている女。



血を流し倒れているのは悠嘉だった。

そして、呆然と横に座っているのは香織ちゃん。



思わず持っていた車の鍵を落とし、目の前の光景を把握しようとしなかった。


この場から逃げ去りたいとしか思えなかった。



「どうしよう・・真斗くん。わたし・・・人殺しちゃった。」


小さく呟く声が聞こえた。

よく見ると手には血のついた俺の家の包丁を持っていた。



その言葉にハッと我に返った。

把握しようとしないで逃げ出そうとしていた自分に別れを告げ、ポケットから携帯を取り出し3つの数字を押した。



「あ、あの1台救急車お願いします。刺されてます。場所は・・・」


俺はすぐ119番を押した。


どっちがこのとき嫌だったんだろうか。

香織ちゃんが殺人者になるの。

それか悠嘉が死んでしまうの。