「おい、聞きたいか??聞きたいだろ??聞いてくれるよな???」


日曜日の夜だった。

慎吾が大量のビールを持ってアポナシで俺の部屋に来たのは。

悠嘉が出て行った後で、夕食を食べていた後だった俺は慎吾の持ってきたビールとつまみを口にしながら聞いてやることにした。


土曜日、例の合コンだった。

そう、慎吾、藤田、水本さん、そして水本さんの友達との。


「なんだよ、何かあったわけ??」

そう言うと飲んでいたビールの缶をテーブルにガンッと置いた。

その弾みでビールの開け口から水滴がいくつか飛び散った。


「ありえねぇ。まじで俺は自信をなくすぞ・・・。」


「なんなんだよ。早く言えって。」


そう言ってタバコに火をつけてフーっと慎吾のほうに吐いた。


「ありえねぇんだよ・・・。会場は居酒屋の個室だったんだけどさ、藤田のために俺は可愛くもない水本さんの友達とばっかり話してたんだ。そしたらいきなり水本さんがみんなの前で俺に告ってきて。”わたし、斉藤さんが好きなんです!!”とか言っちゃって。もちろんその場で”わりぃ・・無理。”って断ったんだけどその瞬間次は藤田が”水本さん、俺は水本さんが好きです!!”とか言ってやんの。そしたら水本さん、何て言ったと思う??」


可愛くもないってとこを強調した慎吾にウケていたが、最後のその言葉にわからないとばかりに首を振った。


「”ありがとう。わたしでよかったら・・・”とか言って付き合い始めやがった!!俺好きとか今まで言ってて次は藤田!?俺、藤田レベル!?ちょ・・まじ勘弁。」


慎吾は水本さんの真似をしながら話したかと思うと、後半部分はかなり落ち込んでいたっぽかった。


「いや・・それ・・お前の前で見せつけたか・・」


「その後!!!!!手つないで2人してそのまま消えてったんだぞ・・。残された俺。4人分の飲み代を払い、水本さんの可愛くもない友達から送れと言われ、タイプでもないその子をタクシーで家へ送り、帰った時間9時。」


俺の言葉を遮られたがその慎吾の言葉に思わず噴出してしまった。


「てめぇ・・何がおかしい・・。だいたいお前が来るって思ってたら先に藤田いるしまじビビったんだけど。お前が来てればこんなみじめな思いをしないで済んだというのに。」


そう、俺は行かないということを慎吾に黙っていた。

水本さんに土曜日に7時と言われたのでそのまま藤田に言っていて、慎吾も水本さんにも行かないことを話してなかったのだ。


「悪かったよ。藤田が行きたいって言うからしょうがなくさ。お前に言うとめんどくさそうだったから黙ってたんだ。」


「めんどくさいだ!?お前のせいで俺のプライドは・・」


「水本さんはあんたにフラれても気にしないってのを見せたかったんだよ。気にすんな!!」


そう言って持っていた缶ビールを慎吾の缶ビールにコツンと当てた。

慎吾はチッと小さく舌打ちをしてビールを一気に飲みほし、冷蔵庫に入れておいた新しいビールを片手で開けた。


「あーまじだりぃ。」


この言葉を慎吾は50回くらいこの日言っていたと思う。


そして缶ビールを5本、焼酎を何杯も飲んだ俺たちはそそままその場に寝てしまい、朝の5時半に悠嘉に起こされた。


「あんたたち・・・風呂くらい入りなさいよ!!酒くさっ!!!」


この言葉で。


「悠嘉ちゃん・・・優しい言葉で起こしてほしかったな・・・。俺、傷心だから。」


「慎吾くん、あんたは日ごろの行いが悪いからよ。早く帰って風呂入って仕事行きな。」


そう冷たく言っ放って慎吾のジャケットを寝癖のついた髪をかきながら座っていた慎吾の頭からパフッとかぶせた。

寝起きでボーッとしながら見ていたが、慎吾には異常に冷たいなと思った。


女の敵って前言っていたしな。
それからはまたすれ違いの日々だった。

木曜日、休みの悠嘉は久しぶりに前の店の友達、ツバサちゃんと出かけるとか言って出かけていたし。

というかツバサちゃんとは仲良かったらしく、よく出かけたりしていた。


俺は寂しくビールを飲んでいたが、これは前は普通だったんだと思うと今の生活は贅沢なのかもしれないと思った。

好きな子がそばにいるだけでいいだろうって。

寂しいと思う権利は俺にはない気がする。


でもこの日、1時過ぎまで悠嘉の帰りを待っていたが帰ってこなかった。







そして金曜日の朝、いつも書いてあるノートにはたった4文字書かれていた。




そして・・・悠嘉の荷物はなくなっていた。


書かれていた文字、それは”ごめんね。”だった。
俺は何がなんだかわからなかった。

荷物はなくなっていて、そしてノートに書かれたごめんね。の文字。

その横には水滴の染みのようなものまで出来ていた。


涙??

泣きながら俺に謝る言葉を書いたんだろうか??

でも、何故いきなり。

突然すぎて頭が全くまわらなかった。



ただ、悠嘉がいないというだけで朝のこの部屋は静かに感じ、そして暗く感じた。

悠嘉が来て2ヶ月弱、たった2ヶ月弱。

その期間でこの部屋に楽しさと明るさをもたらしてくれていたと改めて思った。



どうして・・・・消えたんだろう。


俺はノートの前から動くことすら出来なかった。



そしてふと時計を見上げるともう出社している時間になっていた。

それに慌て、急いで着替えて髪をセットし、外に出た。


もう11月の下旬。

すごく外は寒かった。



悠嘉は、寒くないんだろうか。

どこにいるんだろうか。


そのことばかりが頭の中に回っていた。


思っていた以上に俺は悠嘉に惚れていたということがわかった日でもあった。
「そしてお前携帯に連絡したわけ??」


会社に着き、喫煙室でタバコを吸っていた慎吾に朝の出来事を話して言われた。

そうだった、携帯の存在を忘れていた。


「いや、まだ・・・。」


「っ・・お前テンパりすぎだろ。一回落ち着け!!電話してみろ。」


そう言われ、ポケットから携帯を取り出し、悠嘉の番号にかけた。


『お客様のかけられた番号は現在使われておりません。』


冷たい機械音が耳に響いたのと同時に心臓を鷲掴みにされたくらいのショックを受けた。


俺はゆっくりと携帯を下ろし、赤の終話ボタンを押した。


「つながんねーの??」


繋がらないだけならいいんだよ・・・。


「いや、解約されてる。」


そう言うと慎吾は俺から視線をあからさまに外した。

そして俺と逆の斜め下を見つめ、次の言葉に困っているような感じだった。


「いいよ、気つかわなくても。しょうがねーし。」


すると慎吾は立ち上がり、出口側にいた俺の肩をポンと叩き


「元気出せよ。俺がいい女紹介してやっから!!!」


そう言って喫煙室を出て行った。



慎吾が出て数秒目の前にある大きな銀色の灰皿を見つめていたが、何かが切れたかのように手に持っていたマルボロのタバコを下に投げつけた。



八つ当たりだが、身体が勝手に動いた。
この日、終わって飲み行こうと慎吾に言われたが俺には行くところがあった。

悠嘉が働いているクイーンだ。

もしかしたらここにいるかもしれないから。



「俺も行こうか??」


そう言ってくれた慎吾と一緒に開店直後のクイーンへ行った。


もし、いたら何と言えばいいんだろう。

確か源氏名はサラに変えてたはず。


クイーンに入るとずっと前にもらっていたポイントカードを渡した。

そしてボックス待機を言い渡された。

満員らしい。


そして指名を聞かれ、サラちゃんと答えると・・・・



「サラちゃんはすみません、お休みなんですよ。」


頭を殴られたような感覚になった。


「明日は・・サラちゃん来ますか??」


「──・・・はい♪」


沈黙の後にはい♪と元気よく答えられた。

きっと無断欠勤してるんだろうな。

だからちょっと迷ったんだ。

そして明日も来るようにそう言ってるんだ。

俺も営業だからこういうときあるし、よくわかる。


「すみません、じゃあ明日来ます。」


そう言って席を立ち上がり、前の席にいた慎吾と一緒に店を後にした。



「もう忘れろよ。」


階段を降りながら小さく慎吾が呟いた。
忘れなきゃいけないんだろうか。

何で涙ながらにごめんね。と書き部屋を後にしたんだろうか。

どうして出ていかなきゃいけないことがあったんだろうか。



「おい、思いつめた顔してんなよ。フェアリー行くぞ。」


横から慎吾が言った。


「は??」


「どうせならフェアリーで昨日遊んでたというツバサちゃんに会えよ。」


「でもお前たった今忘れろって言ったじゃねーかよ。」


「あ?それは本心。でもどうせ無理なんだろ。最後までやってから忘れろ。」


寒空の下、俺らは男2人でフェアリーに向かった。

騒がしい街中を歩いて。





店に入るとレゲエのアップテンポの曲が流れていた。

レゲエだったりトランスだったりかなり変わる。


「ツバサちゃんお願いします。」


俺は黒服に言うとボックスに案内された。


ツバサちゃんはどうやらいるらしい。

慎吾は慎吾で目についた可愛い子を指名していた。






「こんばんわ~。ツバサです。」


そう言ってポスッと俺の横にツバサちゃんが座った。

香水の香りがかなりにおっている。



「あ、あの、俺覚えてないよね??」


そう言うと俺の顔をジーーーッと見つめてきた。
「ゴメンねー、わたし記憶力悪くって・・・。でも見たことはあるの。かっこいいのに覚えてないなんてわたしホンットばか!!もう1回お名前聞いていいですかぁ??」


どうやらツバサちゃんは前に指名した客と間違えているようだった。


「あ、いや俺はツバサちゃんを指名したことはなくって・・・。」


そう言うとキョトンとした顔をした。


「悠嘉あ、いやキョウカちゃんを指名してたんだ。俺。」


そう言うと何か思い出したかのように大声で


「あぁーーーー!!!」

と俺を指差しながら叫んだ。


「キョウカのお気に入りだった人だ!!塚本さん!!」


「・・そう、塚本です。」


そう言うとニコリと笑って俺の太ももに両手をついて


「ねーねー、キョウカ元気ぃ??確か一緒に住んでるとか前に偶然会ったとき聞いたんだよね。あ、今日は慎吾くんはぁ??」


と聞いてきた。

偶然??

この言葉がすごくひっかかった。


「ね、ツバサちゃん昨日悠嘉と遊んだんじゃないの??」


俺が言うとまたキョトンとした顔をした。


「悠嘉ってキョウカのこと??」


「そう。本名聞いてなかったの??」


そう言うとちょっと動揺した感じでそうなんだ。と笑いながら口を動かした。

そこに妙に違和感を感じた。

仲良くなんてなかったのかもと。


「わたし、キョウカとはキョウカが店辞めてからはその偶然以外は会ってないよ??てかどうかしたの??」



このうるさい音で聞こえなかったらよかったのに。

ここに来なかったらよかったのに。



俺は嘘をつかれていたことに今気付いた。


悠嘉は何度も何度も・・・ツバサちゃんと会うと言って出て行っていたから。
「悠嘉ちゃんにお前はもったいないって思ってたけどな、俺は。」


フェアリーを出た後、意気消沈した俺を慎吾が飲みに誘ってくれた。

あのまま誰も居ない家には帰りたくなかったし、このままグデングデンになるまで酔ってやろうと思っていた。


「逆だろ。悠嘉に俺はもったいない・・・。」


「バーカ、お前は自分で思っている以上にいい男だぞ??俺はお前と悠嘉ちゃんは不釣合いだって思ってた。ちょうどよかったと実際思ってるし。」


慎吾は頼んだから揚げを箸に刺し、それを食べながら言った。


「んなことねーよ。」


「ま、どっちにしろもう忘れることだな。」


そう言ってから揚げをビールで流し込むかのようにビールを大量に口に含んでいた。



「──・・・あのさ、彼女なんで出て行ったんだと思う??あれだけ泣きながら本音話してさ、怒ってさ、笑ってさ。あれは本当の姿だったよな??」


「どうなんだろうな。女優以上の女優だったかもしれねーぞ??あの外見で26歳ってのも信じがたいし、どうせ年上の女だったから早く忘れるってお前に思わせるため、あの時点で嘘ついてのかもってのもあるだろ??もうこれ以上考えるなよ。」


そう言って慎吾は悠嘉の話にストップをかけた。


「そだな。全て・・嘘だったのかもしれねーしな。」


ツバサちゃんが悠嘉って名前を出したときにえ??って顔をしたのを思い出した。

本当は本名すら違ってたのかもしれない。

でももしかしたらツバサちゃんとは全然仲良くなんてなかったのかもしれない。

もう何が本当なのかもわからない。


「夜の女をもう信じたりすんじゃねーぞ。」


そう言って俺らは朝方までいろんな店で飲み明かした。

男2人だってのに寂しいと思わなかった。

それは慎吾がずっと喋っててくれたお陰だと思う。