髪ゴムを買って、通学路を急いだ。

 悠人が通う学園は、私立紅音学園という。
 中高一貫の、大学付属校だ。
 悠人が住むアパートからは、徒歩で二十分。

 途中で、無事生徒の波に乗る事ができた。

 なるべく、クラスメートには会いたくないな。
 そう思いながら歩いていると、不意に。

「おはよう、鷹宮くん」

 柔らかな声が、背中側から聞こえた。

 その声に、二重の意味でどきりとする。

 一番聞きたかった声であり、
 今、一番会いたくなかった相手だったから。

「おはよう、仁科さん」

 振り返り、挨拶を返す。
 と、声をかけてきた少女は微笑みを浮かべる。
 ふわりと、相手の心を包み込むような笑顔。

 悠人のクラスメートである、仁科一美だった。